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P2Pの活用をめぐって~「Winny事件」とは何か?

2018.11.13

コラム

P2Pの活用をめぐって~「Winny事件」とは何か?

P2P技術を用いた先駆的サービスをめぐる事件
以前から広く採用され、現在も多くのWebサービスやネットワークの仕組みとなっている、クライアント・サーバー型モデルに対し、P2P(Peer-to-Peer)と呼ばれるモデルがあります。

中央集権的なかたちで中央サーバーにすべての情報を集約、ユーザーはクライアントとして、提供される機能やサービスを利用する立場に固定されるものとなる前者とは異なり、P2Pの場合、参加ユーザーは皆“Peer”として同格で、クライアントにもサーバーにもなり、網目状のネットワークで直接互いがつながり合い、接続してやりとりをする仕組みになります。

この分散型ネットワークのモデルは、ブロックチェーンを支える重要な基礎となっており、さらに一部のコミュニケーションサービスなどでも導入・活用が始まって、次世代インターネット世界との親和性が高い特性をもつとみられるようになったことなどから、高い注目を集めています。

しかしこのP2Pが世間の脚光を浴びたのは、これが初めてではありません。過去、その技術を用いたサービスが社会問題となり、ついには開発者までもが逮捕・起訴される事態に発展、IT業界を中心として広く衝撃が走るところとなった事件がありました。世に言う「Winny事件」です。

Winny事件とは何だったのか、今回はその経緯を中心に振り返ることで全体像を理解し、P2Pの今後についても考える契機としていきましょう。

「Winny」についてと事件の始まり
「Winny」は故・金子勇氏によって2002年に開発が始められたファイル共有ソフトです。ファイル共有機能を主とする「Winny1」と、P2Pによる大規模な匿名掲示板の実現を目指した「Winny2」が存在しましたが、いずれも特別の権限をもった管理者、中央サーバーを置くことなく、ユーザーが自由にやりとりする純粋型のP2Pネットワークを作り上げていた点が画期的でした。

金子氏はこの「Winny」を独自に開発し、無償で配布、誰もが利用できるものとしたのです。「Winny」を用いるユーザー同士は、それぞれのアップフォルダにあるファイルを直接交換・共有してダウンロードすることができます。送受信されるファイルは暗号化され、「キャッシュ」というフォルダに蓄積される仕組みで、他のユーザーもダウンロード可能な状態になっていました。

入手を希望するユーザーがファイルをダウンロードすると、該当ファイルはダウンロードしたPCの「キャッシュ」フォルダに残り、ネットワーク上では大元のファイルと同じに見えるため、ダウンロードされる度に入手可能な窓口が増加、ダウンロードできるファイルが増えていく、独特な拡散性と高い匿名性のある仕様でした。

さらにこのネットワークでは、ファイル情報とともにファイルのアドレス情報である「キー」というデータも流れていましたが、キーはファイルが増殖すると同時に書き替えられ、ダウンロード済みのファイルがダウンロード後のアドレス情報を記録したキーを他のノードに送るものとなっており、やりとりが頻繁に重ねられていくほど、最初のファイル提供者、流出元を特定することは難しくなるものとなっていたことも知られています。

P2Pネットワークとして画期的なサービスで、利便性と匿名性の高さから「Winny」の利用は、さまざまな方面に広がっていきました。ウイルスを仕込んだファイルも流通し、ノードのHDD上にあるファイルを勝手にコピー、他のユーザーがダウンロード可能な状態にネットワーク公開させてしまうAntinnyでは、膨大な数の個人情報や機密情報が漏洩する事態にもなっています。一度漏洩したファイルはネットワークで自律分散的に増殖していくため、完全削除は難しく、被害を食い止められないという状況も引き起こしました。「Winny」といえば情報漏洩でよく耳にしたと記憶されている方も多いのは、このためです。

さて、このようにウイルスを仕込んだファイルも流通させられるように、「Winny」がどんなファイルでも、直接取引により、高い匿名性をもってやりとりできるネットワークとなったことで、適法なものだけでなく、違法なファイル取引も横行するようになっていきました。これがWinny事件につながります。

著作権法違反で利用者を摘発、開発者も幇助?
2003年11月27日、著作権法に違反する公衆送信権の侵害容疑で、「Winny」ユーザーの少年と自営業男性の2人が逮捕されました。少年はゲームボーイアドバンス用の人気ソフトなど26本のデータを公開、共有し、不特定多数がダウンロードできるようにしたこと、自営業男性は映画2本の動画コンテンツを公開、ダウンロード可能としたことが容疑の内容でした。のちの裁判の結果、2人はいずれも懲役1年執行猶予3年の有罪判決が言い渡されています。

物議を醸したのは、「Winny」開発者の金子氏も、この事件の著作権侵害行為を幇助した共犯として逮捕されたことでした。確かに2人の犯罪行為には「Winny」が利用されており、「Winny」が存在しなければ、彼らも違法行為にいたらなかったかもしれません。

しかし「Winny」そのものが違法であったわけではなく、あくまで利用者の問題であって、開発者に罪はないとする指摘の声も多くあがりました。ファイル共有サービスをめぐる海外の事件事例では、米国のNapster事件が有名で、提供側がユーザーの著作権侵害行為に寄与しているとされたものがありますが、このサービスは中央での管理が可能であり、Winnyのケースとはやや状況が異なります。

より近い事例は、ファイル共有ソフト「カザー」の例で、こちらはオランダ最高裁が配布を合法と判断しており、開発者責任を問うのは、国際的な観点からしてもおかしいとする意見が出ていました。

世の中にはさまざまな開発技術がありますが、法的な議論では技術そのものと、それを提供する行為、どういった意図で提供・公開するかを厳密に分けて考えなければなりません。技術そのものと提供行為では、基本的に今回のようなケースでは、あくまでも利用者責任ですから、開発者が罪に問われることはなかったでしょう。

問題は最後の意図にかかる部分で、逮捕に踏み切った京都府警の発表によると、金子氏が現行のデジタルコンテンツをめぐるビジネススタイルに疑問を感じており、警察の著作権法違反取り締まり体制を崩壊させるべきと考え、著作権侵害を蔓延させる意図を持っていたこと、匿名性を実現できるファイル共有ソフトで現在の著作権概念を変えざるをえない状況を生み出せるはずという旨の発言を行っていたこと、匿名性の高い仕様にあえてしたこと、著作権侵害にあたるやりとりが広がっていることを知りながらそれに対応せず、236回のバージョンアップを繰り返していたことの4点から、著作権法への挑発的態度があり、積極的な幇助にあたる、罪に問えると判断したとされていました。

その後の裁判経緯
2004年の京都地裁裁判では、地検側が幇助の故意を主張したのに対し、金子氏側は正犯の2人と面識がないことや純粋な技術開発に過ぎないことなどをあげて起訴事実を全面否認して真っ向対決となりました。裁判は長期化し、2006年7月3日に検察側が懲役1年を求刑、同年12月13日に京都地方裁は著作権法違反の幇助で、罰金150万円の有罪判決を出しています。

金子氏側は、判決を不服として控訴、検察側も控訴し、大阪高等裁判所での二審が開かれました。こちらは一審判決を破棄し、金子氏無罪となり、検察側が最高裁判所に上告します。2011年12月、最高裁判所第三小法廷で検察側の上告が棄却され、結果は金子氏の無罪確定判決となりました。

裁判後に金子氏が「Winny」開発に戻ることはなく、2013年に急性心筋梗塞で死去、同ソフトの開発は事実上の終了を迎えています。

「Winny」には、確かに危険な側面があり、ネットワークとしてより適正な運用が促進される仕組みが、普及の観点からは必要であったといえるでしょう。しかし、その後のP2P技術開発の基盤となった取り組みとしての先見性と意義も認められます。今後はWinny事件で起きたことの経緯を知った上で、P2Pの有意義な活用を考えていきたいですね。

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(画像は写真素材 足成より)